小説を編集してみよう 『自分のための基準』のススメ
小説を編集しよう
小説を書きつづけて、ようやく “一区切り” をむかえましたね。
“一区切り” には、前後編の前編、短編の完結、長編の第一章の終わりなど、さまざまな形があります。
形はどうあれ、物語ができあがったのなら、つぎは編集エリアへと入っていきます。
編集とは、間違いの修正や文章の取捨選択、構成や配置変更、ものごとの関連づけの強化を行うことを指します。
「小説を書きあげたばかりだ。完成したのに変更なんてしたくない!」
「終わったと思ったのに、また何かしなきゃいけないの?」
めんどうだな……と思う気持ちもわかります。
わかりますが、編集は必要です。
とくに間違いの修正は、完璧にできなくても、かならず行うべきです。
書いているあいだは、一行を書くことに夢中になっています。
そのため、物語上の大きなズレに気づかないものなのです。
登場人物の名前が、途中で変わっていたり。名前の呼び方が混ざっていたり。
ヘタすると、物語の大前提がくるってしまっていたりします。
事例として、筆者がじっさいにした間違いを、恥をしのんで列挙しておきます。
- 重要な登場人物の名前が、前半と後半で違うものになっていた。
- 眼鏡がめずらしい文化圏のため、眼鏡を見たことも聞いたこともないはずの主人公が、物語の途中で「お眼鏡にかなう」という言葉を使用していた。
- ある道具を使わないと力が発揮できない設定だったのに、主人公が道具をはずした状態で戦闘に突入していた。
「なんでこんな間違いを……」という間違いですが、 “一区切り” まで書き終えて、何度か見直したときにやっと気づいたものばかりです。
とぼけた性格の筆者でも、普段であればさすがに気づくような間違いなのですが。何十行、何百行、何千行と書いていくと、大きな間違いに気がつかなくなってしまいます。
読み返しは、とてもだいじです。
大丈夫と思っていても、自分が思っていた以上に間違えています。
『第一の読者』の視点に切りかえる
直すのは、なにも間違いだけではありません。
物語の流れを見直して、イベントの順序を入れかえることもあります。
メリハリをつけるために、百行ほどバッサリ切り落とす大手術をすることもあります。
このエリアこそ、『第一の読者』の出番です。
作者視点だと、どうしてもそのままにしておきたくなりますが、ここは『第一の読者』の意見に耳をかたむけてみましょう。
「いま、自分は『第一の読者』だ」と意識を切りかえるだけで、別の角度から小説を眺めることができます。
作者である自分では、なかなか親心を捨てきれません。そのせいで、すべてにおいて甘い採点をしてしまいがちです。
ここは一度、読者である自分におまかせしましょう。
『第一の読者』として小説を読むときは、書いているときとは違う画面を選ぶようにしてください。
パソコンで書いているのなら、読者視点のときはスマートフォンで読む、あえてタテ書きやケータイのモードで読むなどがオススメです。
いつもと違う画面を選ぶだけで、いままで見えていなかったものに気がつけるようになります。
完璧主義が顔を出したら
「直しても直しても、完全に直ったと思えなくて不安……」
完全、完璧という言葉が出てきたら要注意です。
100点満点を求めはじめたら、完璧主義が再発しています。
完璧主義は、創作における最大のハードルです。
より良くをめざすのは、創作者として自然なこと。
しかし「完璧じゃなければダメだ」と思い込みはじめると、とたんに身動きがとれなくなり。さらに症状が悪化すれば、創作自体をやめてしまう場合があります。
小説を書きたいと望み、やっとのことで書きはじめられたというのに。完成間際になって筆を置いてしまうなんて、とてももったいないことです。
完璧は幻です。
完全は存在しません。
間違いは、できるかぎり直す……と、しておきましょう。
世の中には親切な人がいまして、なんのメリットもないのに、無償で間違いを教えてくれたりします。
直せるだけ直したら「間違いを教えてくれる人がくるかもしれない。そのときは、ちゃんと感謝をつたえよう」と対応を決めておけば大丈夫です。
仮にしっくりこない場所があったとしても。その箇所をふくめた状態で、小説全体が60点を越しているなと思えれば、 “とりあえず” 完成としてしまいましょう。
時間が経てば、しっくりこない理由がわかることがあります。
そのときに、また手を入れればいいのです。
創作は、すぐに終わりません。
気になれば、何度でも手を入れるものです。
あなたが「完成」と言ったからといって、手を入れる機会が失われることなどありません。
だいたいできたなら、GOサインを出してしまいましょう。
頭が混乱してきたら 編集の基準をつくろう
「100点をめざしてないのに、読めば読むほど混乱してきて、これが60点を越しているかもわからなくなった……」
編集は『第一の読者』の視点で。
ルールはひとつなのに、行動が止まってしまう。
その原因は、『第一の読者』のなかに『自分のための基準』がないことにあります。
どういう文体が好きか?
心地良いと感じる話のテンポは?
読みやすいと思える、文章の長さは?
普段のあなたは、ほとんどなにも意識せずに読書をしているかと思います。
こういうことが意識にのぼることは、めったにありません。
しかし、あなたのなかにも『自分のための基準』は存在しています。
無意識のうちに選別されているため、あなた自身が存在を認知していないだけです。
こういうときは『自分のための基準』を取り出し、目に見える形にするのが一番です。
しかし『自分のための基準』というものは、意識するのも言語化するのもむずかしく、やるとなればかなりの時間を要するはずです。
完成間近で時間を浪費していては、やっとできはじめた書く習慣が途切れてしまいかねません。
そこで手っ取り早く『自分のための基準』を視覚化する、ひとつの提案したいと思います。
『自分のための基準』を、時間をかけることなく簡単に視覚化するコツ。
それは、あなたの本棚に眠っています。
「本棚なんてないよ。全部Webで読んでるから」
そういう人は、お気に入りリストやブックマークを覗いてみてください。
本棚やお気に入りリストは、無意識のうちに『自分のための基準』によって選別された小説達が並んでいるはずです。
その小説のなかから、この3つの要素を持つ小説を選び出してください。
- スラスラと読めてしまう、読むのが楽な小説。
- 描写が丁寧で、イメージするのが楽な小説。
- 登場人物が個性的で、読んでいて「この人、誰だっけ?」となることが、ほとんどない小説。
まずはこの3つがあれば、迷子になる可能性がグンと低くなります。
カンがいい人は、すでにおわかりですね。
この3つの要素は、小説を書くときにぶつかりやすい「なやみ」を元にしています。
- 読み直しても突っかかってしまって、なんだか読みづらい。
- 説明は十分なはずなのに、どうしてか物足りなく、味気なく感じる。
- 登場人物が、同じような描写になる。語尾を変えたり工夫してみても、性格が同じに思えてしまう。
いま選びだした小説は、この3つの「なやみ」への答えとなる小説なのです。
小説の数は、3つでなくてもOKです。
また、ひとつの作品が「なやみ」のすべてを網羅することもあるでしょう。
シーンによって「なやみ」自体に変化が出るなら、さらに数が増えるかもしれません。
ただ数が多くなり過ぎると、こんどは管理が大変になります。
『自分のための基準』は、どんなに多くても7作品以内におさめてください。
また、小説を参考にするときは、かならずタイマーを設定しましょう。
好きな小説を開いてしまうと、そのまま読みふけってしまう可能性が高いのです。
小説が完成したら
完璧はない。
完全もない。
そもそも人の感覚は、ときが経てば変わります。
いま、あなたが感じる好きという感覚をだいじにして、編集をしてみてください。
小説には、緩急のほかに明暗もあります。
シーンに合わせて、明るい、暗いなどの明度も調節していきましょう。
『自分のための基準』にもとづいて編集をし。
『第一の読者』が「60点を越したよ」と答えてくれたら、執筆に区切りをつけます。
――おめでとうございます!
これであなたの小説が完成しました。
思う存分よろこんで、やりきった気分を味わいましょう。
書き上げた小説は、せっかくなので「小説家になろう」などのサイトへ投稿してみてください。
また、なにかの賞に出してみるのもいいでしょう。
作品を発表するのは、また格別の達成感が得られます。
勇気を出して、あらたな一歩を踏み出してみるのも楽しいものです。
まとめ
・書きあげた小説の間違いを修正するときは、執筆画面とは違うもので読み直す。
・完璧主義をおさえるため、60点を越していたら “とりあえず” 完成としてしまう。
・『自分のための基準』を視覚化し、『第一の読者』視点で編集していく。
>> 『自分のため』に情報を取捨選択する 感想や数値に関わるコツ